「視線が誘われる階段」
同じモチーフであるが、油彩と水彩では全く異なった印象を受ける。
超現実的な画面に思わず目が奪われるが、とりわけコラージュの(天地を継ぐもの)は、白い雲間から強い陽光が降り注ぎ、大地を明るく照らし出す。我々の眼前から伸びる階段は緩やかに蛇行しながら天空に浮かぶ城と繋がっており、本作の主題を示す。
雲間にある城までの距離は、この階段の幅では、どれほど進んでもたどり着くことはできなさそうに思われる。しかし一本の道として写実的に描かれているため、今このまま足を踏み出せば、天へと駆け上がっていくことができるのではないかと思わず視線が誘われるのである。
この幻想的な城を眼にして、ガリヴァー旅行記に出てくる浮島ラピュタか、宮崎駿監督の映画『天空の城ラピュタ』あたりを想起する観者も多いだろう。
天空の城は自然を掌握しようとする人間の欲望のメタファーである一方、自然と人間の共生や、自然の尊重ということを思い出させるよすがでもある。天空から流れ落ちる水流は、水蒸気となって下界の大地を潤し、湖に豊かな水量をもたらすという構図も神秘的である。羽ばたく鳥たちの鋭いシルエットも画面の好アクセントとなっている。
水彩画の(天地を継ぐもの>は、水彩絵具特有のほかしや滲みを生かした造形で、相対的に柔らかい印象を受ける。陰影を紫色の優しいグラデーションで表現し、紫色の鳥が空を舞う。
黄金色の雲のようなレイヤーが霞たなびき、天空に浮かぶ城はその霞の向こうに密やかに浮かび上がる。
白い雲の切れ目から青い空が見え隠れしているのも神秘的である。波紋が緩やかに広がる水面の表現は、粘性の高い水のようにも見える。
鳥以外に生き物の姿はなく、人間の気配が感じられないところも、この世のものならぬ空間を思わせる。
文/嶋田 華子
2024年4月1日発行
2,200円(本体2,000円+税10%)
A4ワイド/右開き/カラー/188頁
ISBN978-4-88143-169-6
巻頭特集は、近代建築三大巨匠のひとり、ル・コルビュジエです。
「サヴォア邸」(パリ)など、世界遺産に登録されている建築物は世界各地にありますが、日本の国立西洋美術館もその一つで東京都内では唯一の世界遺産です。また、著述(詩画集、都市論、紀行文など)も多くの遺しており、建築と文学者としての側面を交えて特集します。
また、建築をはじめとしたあらゆるジャンルの現代アーティストの誌面も満載でお届けします。
Vol.85特集
建築家、あるいは文学者
ル・コルビュジエ
書物をつくるひと
図版と素描
詩と都市と旅
建築作品ギャラリー、他
今日の空間芸術―日常と先進のムーブメント
現代芸術―理念と本能による心象構築